幸せホルモン「セロトニン」ってなに?

「脳腸相関(のうちょうそうかん)」という言葉が知られるようになってきました。

私たちのおなかはさまざまな臓器とつながっていて、特に脳と腸はとても複雑なネットワークが構築され、私たちの体と心の健康に影響していると言われています。そのやりとりには神経伝達物質が深く関わっているのですが、その神経伝達物質のひとつに「セロトニン」という物質があります。

「セロトニン」は、私たちの情緒に影響するホルモンで、別名「幸せホルモン」とも呼ばれています。一体どんな物質なのでしょうか。ぜひ一緒に学びましょう!

幸せホルモン「セロトニン」とは?

別名、幸せホルモンと呼ばれるセロトニンは、脳の中で働く神経伝達物質のひとつ。興奮物質であるノルアドレナリンやドーパミンと並び、感情面や睡眠などの機能に深く関わる「三大神経伝達物質」のひとつです。

セロトニンの大きな役割として、ノルアドレナリンやドーパミンといった興奮物質の暴走を抑え、心のバランスを整える作用があります。心の平穏や前向きな幸福感に深く関わっていることから、幸せホルモンと呼ばれるようになったのですね。

セロトニンは心の状態の他にも、睡眠の質にも影響しているそう。朝起きて、徐々に頭がスッキリしていく過程はセロトニンによって起こるもので、目覚めが悪く、いつまでもボーッとなってしまう人は、セロトニンが大脳に働きかけていないという場合も。

ストレス社会に生きる私たちにとって、セロトニンがきちんと体内で作られているかどうかは、重要な健康バロメーターになりそうですね。

 

「セロトニン」が不足するとどうなるの?

心と体に元気を与えてくれるセロトニンは、いわば私たちの体内で作られる安定剤のような存在。そんなセロトニンが不足すると、さまざまな不調が現れることが分かっています。 

まずは前述にもありますが、ひとつは「目覚めの悪さ」です。

セロトニンは、体内の材料をもとに朝方から分泌されます。そして、起床する際に大脳に働きかけ、覚醒の状態を調整してくれる働きがあります。そのため、セロトニンが不足しているとシャキッと気持ちよく起きられず、いつまでもボーッとなりがちに。もちろん、睡眠の質自体にも影響してしまいます。

二つ目は「体のダルさ」です。

朝起きてセロトニンがつくられ始めると、体の中では交感神経が働き出し、体が活動に適した状態に切り替わります。ですが、セロトニンがうまく分泌されていないと、血圧や代謝が上がらず、体がどんより状態に。朝からダル重い感じが続くという人は、セロトニン不足かもしれません。

三つ目が「心の平穏」

脳には、やる気や心のバランスに関わる領域があります。そこにセロトニンが現れると、前向きな幸福感やポジティブな気持ちが湧き上がることが分かっています。そのため、セロトニンが不足すると怒りやすくなったりイライラしたり、さらに時間が経過しても負の感情を抑えにくくなるのです。セロトニン不足は、心のアンバランスにつながってしまいます。

最後は「痛みの感じ方」です。

意外な内容ですが、セロトニンには痛みやストレスの感覚を抑制する働きがあるので、不足するとちょっとしたことでも痛みを感じやすくなったり、ストレスに負けてしまったり…。痛みやツラさのコントロールが難しくなることが分かっています。

「セロトニン」の9割は腸でつくられる 

セロトニンが、いかに私たちの健康に関わっているかがお分かりいただけたかと思います。

そんなセロトニンはどこで作られているのでしょう?神経伝達物質ときくと、脳で作られている印象がありますよね。ですが、驚くべきことにセロトニンの9割は「腸」でつくられているんです!正確には、セロトニンの約90%は腸管でつくられており、そのほかで血液に含まれる血小板や脳内の神経でつくられています。腸でつくられる際、セロトニンはトリプトファンというアミノ酸から合成されているのですが、この合成を担っているのが善玉菌だというのです。このことから、おなかの環境を整えることは心の安定にも大きく影響することが分かりますね。

セロトニンは本来誰もが分泌している物質ですが、年齢を重ねるとともに減少し、ストレスを感じると分泌が悪くなることが分かっています。そのため、意識して「セロトニンを増やす生活習慣」を取り入れることが穏やかに暮らす秘訣となるんです。

「セロトニン」を増やすには?   

まず、セロトニンが不足する原因はいくつか挙げられるのですが、それらを日常の工夫でクリアすることで、セロトニンを増やすことができると考えられています。そこで、すぐに始められる習慣をご紹介します。

名付けて、セロトニン量アップ作戦!ぜひ始めてみましょう。

❶ 朝起きたら日光を浴びる
目覚めたら、太陽の光を浴びる習慣をつけましょう。日光が網膜を刺激して、セロトニンが活性化します。電灯の光では活性化とならないため注意してくださいね。
日焼けが気になるという方はUVカットの服や帽子、日傘をしていてもOK。目の網膜が光を感じることが重要なので、屋内で日当たりのいい窓の近くに10分〜20分ほどいるだけでも効果があります。朝起き抜けに、カーテンを閉め切った暗い室内でスマホを見る…という習慣は、セロトニン不足一直線。朝はまずカーテンを開けるようにしましょう。

❷ リズム運動をする
激しいダンスのような運動でなくてもOK。例えば、規則正しく歩いたり、ジョギングしたり、体操をしたり……、無理なくできる軽めの運動をイメージしてください。できれば、周囲に刺激が多い場所で行うのではなく、集中できる環境があると◎。なかなか時間がとれないという方は、ガムを噛むこともオススメです。よく野球選手がガムを噛んでいる姿を見たことがありませんか?あれは、「噛む」という行為でセロトニン神経を活発にし、緊張などをほぐす効果があるからなんです。ぜひ継続できるものを見つけてくださいね。

❷ 涙を流す
最近、涙を流すことでセロトニンが増えることが分かってきました。涙を流すと、交感神経から副交感神経に切り替わるのですが、その時にセロトニンを分泌する神経が活性化するのだそう。また、涙にはマンガンという物質が多く含まれています。このマンガンが一定量を超えて体内に溜まると、うつ病のリスクが上がるのだとか。心に響く映画や本に触れたり、悲しいことを溜め込まず思いっきり泣いたりといった時間を持つことが心の安定につながります。

❷ トリプトファンというアミノ酸を摂る
セロトニンをつくりだす際に必要な材料として、「トリプトファン」という必須アミノ酸があります。このトリプトファンは体内で生成できないので、食事から摂取しなければなりません。トリプトファンが多く含まれている食材の代表格が納豆、豆腐、味噌などの大豆製品です。また、チーズや牛乳などの乳製品、白米や玄米、ごまやピーナッツ、卵などにも含まれています。トリプトファンは肉や魚にも含まれているのですが、動物性たんぱく質に含まれているBCAAというアミノ酸がトリプトファンを取り込みにくくしてしまうため、できれば植物性たんぱく質から摂取する腸活を意識してみてくださいね。

幸せホルモンで、健やかな毎日を 

現代の私たちは、スマホやパソコンの普及によって夜更かしや運動不足が加速し、不規則な生活が慢性化するなど、セロトニンの分泌が低下しやすいライフスタイルになっています。

最近、なんとなくやる気が出ない、ストレスにさらされている、ついイライラしてしまうといった「心の重さ」を感じている時は、ぜひセロトニンを増やす生活習慣を意識してみましょう。きっと、なんらかの気づきが生まれてくるはず♪

 


参考: 
●江田証(2019)『新しい腸の教科書 健康なカラダは、すべて腸から始まる』池田書店.
●藤田紘一郎著(2015)『「腸にいいこと」だけをやりなさい!』毎日新聞出版.
●田和璃佳, 藤田紘一郎(2020)『40代からはじめる「腸活×菌活」完全マニュアル』徳間書店.
●厚生労働省,e-ヘルスネット「セロトニン」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-074.html
●スターバックスコーヒージャパン健康保険組合 Web広報誌,「“幸せホルモン”セロトニンで心も身体もスッキリ目覚める!」https://www.starbucks-kenpo.or.jp/my_wellness/mindset/list15.php
●山梨県厚生連,健康情報「「トリプトファン」を摂って、しあわせホルモン「セロトニン」を増やそう!」https://www.y-koseiren.jp/column/season/3224