おなかの守り神といわれる「短鎖脂肪酸」を知ろう

菌活や腸活をしていると、「短鎖脂肪酸」という言葉を見聞きすることはありませんか?

なんとなく難しそうな響きがありますよね。実は、おなか環境を整えたいと思っている人にとってかなり重要な物質であることが分かり、近年注目を集めています。ですが、私たちの健康にとってどう良いのか、くわしくは知らないという方も。

そこで今回は、おなかの守り神といわれる「短鎖脂肪酸」について紐解いていきましょう!

「短鎖脂肪酸」ってなに?

「短鎖脂肪酸(たんさしぼうさん)」とは、私たちの大腸のなかで腸内細菌によってつくられる有機酸のひとつです。名前の通り、短い鎖状の炭素が連なった構造をしており、この炭素の数が6個以下のものは全て短鎖脂肪酸と呼ばれています。

短鎖脂肪酸は主に3つあり、ひとつはバターの香りの元にもなっている「酪酸(らくさん)」。そして、お酢の主成分である「酢酸(さくさん)」、最後に、保存料や着香料としても使われる「プロピオン酸」の3種です。日頃はあまり意識しませんが、どれも私たちの生活の中で関わりの深い有機酸といえますよね。

ちなみに、近年「酪酸菌」が腸活市場で話題になってきています。スーパーのヨーグルト売り場で、乳酸菌やビフィズス菌と並んで「酪酸菌」というワードを見かけたことはありませんか?これからますます、お目見えする機会が増えそうですね。

そんな短鎖脂肪酸は「おなかの守り神」ともいうべき存在なのですが、どんな働きがあるのでしょうか?

 

短鎖脂肪酸が「おなかの守り神」といわれる理由

短鎖脂肪酸にはさまざまな働きがあるといわれていますが、その中でも特に大きな働きが3つあるんです。ひとつずつ見ていきましょう。

① 体を守ってくれる<腸管バリア

私たちの腸にある腸管は、栄養を吸収してくれる大切な器官であると同時に、体にとって害となる毒素やウィルスを排除する働きがあります。その役割を担っているのが、腸管の粘膜!なんと粘膜にはバリア機能があるのです。この粘膜が減ると、病原菌などの侵入や定着を防ぎきれないという事態に……。そこで活躍するのが、短鎖脂肪酸です。短鎖脂肪酸には、元気な粘膜を維持してくれる働きがあります。

② 悪玉菌を抑えてくれる<殺菌

おなかの中では「体に良い作用がある善玉菌」と「悪さをする悪玉菌」がいつもせめぎ合っている形です。そのせめぎ合いの中、短鎖脂肪酸には悪玉菌をやっつけて善玉菌を応援すると共に、腸内を適度な酸性に保ってくれる働きがあります。腸内のアルカリ化を防ぐことは健康にとってとても重要だといわれています。特に、短鎖脂肪酸のなかでも、酢酸には悪玉菌に対する殺菌作用や静菌作用があることで知られています。よく「健康のために、お酢をよく摂る」という健康法は、理にかなっているのですね。

③ 脂肪や代謝への働きかけ<代謝制御

腸内で吸収された短鎖脂肪酸の大部分はエネルギーとなりますが、一部は血流によって全身に広がっていきます。その時、脂肪組織がそれを感知すると、エネルギー代謝に影響があることが分かっています。例えば、脂肪を燃やしてくれたり、脂肪の蓄積を防いでくれたりといった働きかけです。また短鎖脂肪酸がたくさん発生すると、食欲を抑えるホルモンの分泌を促進してくれるなど、太りにくい体のカギとなります。

このように、おなかの健康はもちろん、全身に影響がある短鎖脂肪酸は、私たちが思っている以上に健康や美容づくりに影響していることを実感しますよね。「おなかの守り神」といわれるのも納得の働きです。

「短鎖脂肪酸」ってどうやって増やせばいい?

こんなにも大切な働きをする短鎖脂肪酸、ぜひ増やしたいですよね。それなら、短鎖脂肪酸が含まれる食品を口から食べればOK?いいえ、それだけではダメなのです。

まず、短鎖脂肪酸がうまれる過程をみてみましょう!

少し専門的な内容になりますが、「難消化性炭水化物」というものをご存知でしょうか。

これは、人が持っている消化酵素では簡単に消化できない炭水化物のことです。いわゆる「食物繊維」もこの一部。実は腸内には、この難消化性炭水化物を分解して、消化吸収を助けてくれる細菌がいます。この腸内細菌たちが難消化性炭水化物を代謝・分解するときに産生されるのが「短鎖脂肪酸」というわけなのです。

短鎖脂肪酸をおなかの中で増やすには、①ビフィズス菌などの有益な腸内細菌(善玉菌)がいること、そして②食物繊維などのエサがあること。この組み合わせが大切になってくるのですね。食物繊維やオリゴ糖を豊富に含む食品やビフィズス菌や納豆菌などを積極的に摂ることをおすすめします。

大切なのはバランスの良い食事、そして腸内細菌がよろこぶ食事です。ぜひ、これまでの食事内容をぜひ見直して、短鎖脂肪酸が増えやすい環境を整えていきましょう!

 


参考: 
●藤田紘一郎著(2015)『「腸にいいこと」だけをやりなさい!』毎日新聞出版.
●田和璃佳, 藤田紘一郎著(2020)『40代からはじめる「腸活×菌活」完全マニュアル』徳間書店.
●内藤裕二著(2022)『酪酸菌を増やせば健康・長寿になれる~今、話題の酪酸・酪酸菌のすべてが分かる!』あさ出版.
●ヤクルト中央研究所,健康用語の基礎知識「短鎖脂肪酸」https://institute.yakult.co.jp/dictionary/word_3163.php
●江崎グリコ 研究実績,「「短鎖脂肪酸」パワーで腸元気!」https://jp.glico.com/laboratory/bifix/03-1.html
●朝日新聞,Reライフ.net「<連載> 腸から始める長寿生活〜腸のことを理解しよう」https://www.asahi.com/relife/special/chou