私たちの体はしばらく何も食べずに過ごしていると、いつの間にか空腹を感じます。ですが、だいぶ長く食事をとっていないにも関わらず空腹を感じない……これが「食欲不振」です。
胃が空っぽなのに食欲が出ないなんて普通に考えると不思議ですが、食欲不振の時は誰しもこうした状態になります。一時的なものであればあまり心配はいりませんが、その状態が数日にもわたってしまうと問題です。
体からの重大なシグナルである可能性もあるため、メカニズムをきちんと知って、日頃からケアしたいものですね。ぜひ一緒に学びましょう!
「食欲」ってそもそもなんだろう?
「食べたい」という気持ちがなくなってしまう食欲不振がどういうトラブルかを知るには、まず「食欲」のメカニズムを知っておきたいもの。
さて、空腹になるとお腹がグ〜ッと鳴りますよね。そのため、「食欲を感じているのは胃だ」と誤解されがちですが、空腹を感じているのは胃ではなく、実は脳なんだそう。
脳には「視床下部」という部分があり、そこに「摂食中枢」と「満腹中枢」と呼ばれるところがあります。私たちの食欲をコントロールしているのは、この部分なのです。
実は胃が空っぽになっても、すぐに「お腹がすいた!」とはなりません。肝臓などにエネルギーが蓄えられていれば、補給をする必要がないので空腹を感じない仕組みになっています。ですが、徐々にエネルギーが不足して血液中の糖や脂質も少なくなり始めると、摂食中枢に「空腹になりました!」という信号が送られ活性化。そして摂食中枢が「エネルギーが足りないから補給して」と指令を出すのです。すると、指令を受けた空っぽの胃が収縮してグ〜ッと鳴り、「何か食べたい、お腹がすいた」となる……。これが、食欲のメカニズムです。
そのため、空腹と同じように満腹感も脳で感じます。そのため、胃は満腹になっているのに満腹中枢が信号を受けとらないと「お腹がいっぱい」と感じないわけです。よく「早食いすると太りやすい」といいますよね。これは、満腹中枢が信号をキャッチする前に次々と胃に食べ物を詰め込んでしまうせいで、量を食べ過ぎるからなのです。 食欲をコントロールしているのは、胃ではなく脳。「食欲不振」を知る上で重要なメカニズムだといえますね。
食欲不振の原因はさまざま
食欲をコントロールしている脳はさまざまな外的・内的要因に影響を受けるため、脳の状態によって食欲も左右されることが分かりました。皆さんも、疲労や睡眠不足から「食欲がない」と感じた経験があるのではないでしょうか?脳が関わっていると考えれば、より自然なことに思えますよね。
そもそも私たち人間にとって「食欲を感じる」ことは、生きていく上でかなり重要な欲求です。そこに不調を抱えてしまうと、栄養が十分に摂取できずに健康トラブルへと直結してしまうからです。食欲不振を「よくあることだから」と放っておかずに、早めに原因を探って対処することが大切です。
食欲不振の原因は数多くありますが、多くは消化器の不調や疾患だといわれています。胃もたれや吐き気、腹痛や下痢などがあると食欲はわきませんよね。こうした消化器の不調は、食べ過ぎや食あたり、消化不良や冷えなどによって起こる場合が多く、他にも風邪やノロウィルスのような感染性疾患からくる食欲不振もあります。また、薬剤の副作用から引き起こされるケースも。
一方、精神的なストレスからくる食欲不振もあります。これは、自律神経バランスが乱れることで脳が影響を受けるから。食欲不振が続いた時に内科などを受診してもなかなか異常が見つからず、精神的なものが原因だったということもあります。 特にストレスによる食欲不振に悩んでいる方は意外と多く、あまり長く続く場合は「相当なストレスを抱えていて、心身がSOSを発している」と受け止めて、自分の健康状態や生活スタイルを改めて見直してあげましょう。
食欲がないときの5つのセルフケア
実際に食欲がなかなか出ない……という時、無理に食べるのは禁物。一日三食が基本ではありますが、食欲不振のときは例外。胃腸を休ませるために食事を控えるのもケアのひとつです。その他にも、自分でできるケアは色々とあるんです。今日は、すぐにでも取り組める5つのセルフケアをご紹介します。
① 休養・睡眠をしっかりとる
食欲不振の時は、まず心身が疲れ切っているという場合が多いもの。まずは体力を回復させて、ストレス解消を試みましょう。自分でも気がつかないうちに、睡眠が慢性的に足りていなかったり、時間に追われていたりします。好きなことをしてリラックスするのも効果的。意図的にそういった時間をつくるよう心がけて。
② 無理やり食べようとしない
食欲がない時は、無理に食べようとしなくても大丈夫。日頃健康な人はエネルギーとなる脂肪を蓄えているので、少しくらい食事を抜いても問題ありません。ただ、気をつけたいのが水分。できれば1日1.5Lほどの水分をとってくださいね。数日経っても状態が良くならない場合は、病気の可能性もあるので、内科や消化器内科を受診しましょう。
③ 市販薬でケアする
食べすぎ飲みすぎなど、食欲不振の原因に自覚がある場合は、市販の胃腸薬などを使って早めに対処するのもアリ。薬局やドラッグストアの薬剤師さんに相談して市販薬を選ぶのが効率的です。栄養補給のためにドリンク剤を活用する方法も。ただし、激しい腹痛や嘔吐などを伴う下痢がある場合は、出来るだけ早く病院を受診しましょう。
④ 精神的なトラブルに目を向ける
胃腸や消化器に問題がないのに食欲が戻らない場合は、精神的ストレスが原因の場合も。仕事や家庭、人間関係などでトラブルを抱えている時は、出来るだけ一人悩まずに信頼できる人に相談しましょう。話すだけでもだいぶ心が軽くなることもあります。心療内科や精神科への相談も◎。あまり気負わずに受診して。
⑤ 消化のよいものから少しずつ食べる
少しでも食べられそうなら、消化のよいものを選ぶようにしましょう。できれば食物繊維や脂質が少ない食品をやわらかくすると胃腸に良いので、お粥やクリーム系のスープ、おうどんやホットミルクなどがオススメです。塩分や香辛料が多いもの、酸味や甘味が強い食品は避けましょう。お酒やコーヒーなどの嗜好品も控えて。
こんな時は早めに受診しよう
どんな理由であれ、食欲が出ないということは心身のどこかに不調が出ている証拠です。症状が長引く場合はためらわずに医療機関を受診するようにしましょう。
特に、ダイエットをしているわけではないのに過去半年から一年の間に5kg以上も痩せたり、食欲不振と共に胸やけや胃もたれ、胃痛、微熱、咳などが常にある場合などは、ぜひ受診の検討を。その際は内科か消化器内科の受診がベストです。いつから食欲不振なのか、体重の増減はあるのか、どういった不快感があるのかなど、お医者さんに詳しく伝えられると診断もスムーズです。
たかが食欲、されど食欲。健やかな体のためにもぜひ気をつけてあげたい健康バロメーターです。夏の疲れが残りやすい今の時期、ぜひ自分の食欲と向き合ってみませんか?
参考:
●松本明子(著), 小林弘幸(監修)(2015)『腸をキレイにしたらたった3週間で体の不調がみるみる改善されて40年来の便秘にサヨナラできました! 』アスコム.
●月刊誌『現代を健康に生きる 栄養と料理』(2021年12月号)女子栄養大学出版部.
●厚生労働省,e-ヘルスネット「ストレスと食生活」https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-04-001.html
●佐藤製薬,ヘルスケア情報「食欲がない」https://www.sato-seiyaku.co.jp/healthcare/extinguisher-anus4.html