【発酵文化から学ぶ vol.1】ぬか漬け生活を始めよう!

日本独自のお漬物といえば、やっぱりぬか漬けですよね。

地域や家庭など、その作り手ごとに特色があるぬか漬けですが、共通しているのは「発酵の力でつくられている」ことです。ぬか床を持つ家庭は減りつつあるものの、一方で「植物性乳酸菌を生きたまま摂れる健康食」として、近年再注目されています。

よく「ぬか床は生きている」などと言われることがあります。それは、お手入れの仕方によって味や香りが日々変化するため、単なるお漬物をつくる材料ではなく、まるで生態系を見ているような感覚になるからなんだとか。とても興味深い発酵食品だと思いませんか? そこで今回は、菌の知恵が凝縮された「ぬか漬け・ぬか床」について一緒に学びましょう!

ぬか漬けっていつから食べられているの?

「ぬか漬けって何?」と改めて聞かれると、案外答えにくいもの。辞書には、「糠(ぬか)に塩、水をまぜたものに野菜や魚を漬けたもの。また、糠味噌 (ぬかみそ) 漬けのこと。」と記されています。

実際、ぬか漬けの原型と思われる漬物は、今から2000年以上前の古墳時代からあったとされています。とはいえ、野菜を塩漬けにしたシンプルなものがほとんどでした。ですが、平安時代の法典のなかに「須須保利(すずほり)」という漬物の記述があり、これが「穀類や大豆の粉末の漬け床に野菜を漬け込んだもの」とされているため、ぬか床・ぬか漬けの元祖なのでは、と考えられているのだそう。

現代では、漬け床といえば「米ぬか」ですよね。実は、米ぬかを使うようになった経緯ははっきりと分かっていません。ですが、ぬか漬けが全国的に広がったとされる説のひとつに「江戸わずらい」という流行り病がありました。

江戸時代になると流通の発展などによって、それまで高級品だった「白米」が、江戸を中心に庶民の間でも食べられるようになりました。それと同時に、不思議な流行り病が出始めます。江戸には地方から多くの人が仕事を求めて来訪していたのですが、なぜか江戸にいると体調が悪くなるのに、故郷に帰ると治ってしまうというもの……。もうお気づきかと思いますが、これはビタミンB1の不足によって起こる「脚気(かっけ)」という疾病です。栄養豊富なぬか部分を精米過程で取り除いてしまう「白米」が主食になったことが原因だったのです。そのうち、「米ぬかのぬか漬けを食べると江戸わずらいに良い」と効能が知られるようになり、ぬか漬けが大流行したんだそう。

ぬか漬けが広まったきっかけが「健康になるため」だったということが、なんとも興味深い説ですよね。私たち日本人は、ぬか漬けの効能を古くからしっかり活用してきたことが分かります。

ぬか床に含まれているものは何?

さて、ぬか漬けをつくるのに欠かせない「ぬか床」には、どんなものが含まれているのでしょう。

ぬか床は、精米後に残る米の皮や胚芽部分である「米ぬか」と塩、水が主材料です。米ぬかに塩と水を混ぜて、ぬか床の発酵を促すための捨て野菜(食べないことを前提にした野菜)を漬け込むと、その野菜についていた乳酸菌がすごい勢いで繁殖しだします。ちなみに、塩を入れるのは有害菌を発生させないため。そうすると、塩に強い乳酸菌がどんどん増え、朝晩よくかき混ぜることで、2週間ほどでぬか床が完成するという仕組みです。

完成したぬか床には主に3つの菌が存在します。まず表面部分にいる産膜酵母菌(さんまくこうぼきん)、真ん中あたりにいる植物性乳酸菌、底の方にいる酪酸菌です。

産膜酵母菌→耐塩性のある酵母菌の一種です。白い膜を作り出す特徴があり、身近なものでは梅干しの表面に発生する白粉状のものがこれです。人体に害はありませんが、放っておくとぬか床にシンナーのような刺激臭が増え、苦味のもとに。

植物性乳酸菌→いわずとしれた腸内の善玉菌を増やしてくれる細菌です。ぬか漬け特有の酸味を生み出すのも、この菌。乳酸菌は酸素がある環境では活動を止めてしまうため、ぬか床を混ぜて表面近くにいる乳酸菌を底に移動させてあげると、より活性化します。

酪酸菌→酪酸を作り出す菌です。腸内に住み着く善玉菌のひとつで、悪玉菌が発育することを抑制し、乳酸菌の成長をサポートしてくれることで知られています。腸活、特に大腸での働きに期待できることで近年注目されている菌です。ぬか床内で増えすぎると異臭がするので要注意。

この3つの菌のバランスが崩れると、嫌な匂いが発生したり、味が損なわれたりします。そのため、上部分のぬかと底部分のぬかを大きく入れ替えるように毎日混ぜてあげる必要があります。ぬか床のお手入れは、この3つの菌をいかにバランスよく育てるか、にかかっているのですね。

ぬか漬けって何がすごいの?

そんなぬか床で漬けられたぬか漬け、美味しさ以外にどんな良さがあるのでしょう。

まず、最も大きな特長といえるのが「栄養価がアップする」こと。もともとぬか自体に、ビタミンB、ミネラル、たんぱく質、脂質などが豊富に含まれています。そこに野菜を漬けることでビタミン類の含有量が増えるというわけなんです。

野菜が持つ栄養
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ぬかから吸収した栄養
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発酵パワ

ぬか漬けの栄養

生野菜として食べるよりも栄養価が高くなるなんて興味深いですよね。ちなみに、きゅうりの場合はビタミンBが約5倍近く増えるんだそうです。ビタミン以外にも、食物繊維やカルシウム、リン、鉄、ナイアシンなど、健康を支える栄養素がたっぷり含まれています。もちろん腸活にうれしい乳酸菌や酪酸菌も摂取できます。ちなみに酪酸菌が摂取できる食品は、ぬか漬けか臭豆腐といわれるほど非常に限られているんですよ。 他にも、発酵によって旨味が増したり、保存性が高まったりと利点はさまざまありますが、やはり栄養の面で類を見ない菌活パワーを秘めていることがぬか漬けのすごさだと実感します。

ぬか漬けは自宅で手軽につくれる発酵食

醤油や味噌などと違って、ぬか漬けは自宅で手軽に作れてしまう発酵食品です。色々な工程はあるものの、考え方としては「①ぬか床を作る→②不要な野菜で捨て漬けして発酵させる→③食べたい野菜を本漬けする」というシンプルなもの。ぬか床が完成するまでは1〜2週間ほどかかりますが、その後はお好みの野菜を漬けるだけでぬか漬けを楽しむことができます。基本的に床全体を毎日かき混ぜる必要があるので手間ひまはかかりますが、自分だけのぬか床で漬けたぬか漬けはやはり格別。一昔前は、初夏と秋(室温が20〜25℃くらいになる時期)がぬか床づくりに適しているとされていましたが、室温を安定させやすい現代では季節を問わず始めても良い、という専門家もいます。

反面、本格的なぬか床に憧れるけど管理が難しそう……という方も。そんな方にオススメなのが、あらかじめ発酵させている市販のぬか床。毎日かき混ぜなくてもいいという商品も多く、ぬか漬けビギナーさんでも始めやすいものが多いんですよ。 「まずはぬか漬けを身近に楽しみたい」ということなら、手作りでも市販のものでも大丈夫。毎日の食生活にぬか漬けを取り入れるところから始められるといいですね。

ぬか漬けで美味しく菌活しよう!ぬか漬けオススメ食材7選

ぬか漬けと相性のいい野菜といえば、漬物になった時に歯ごたえがあるもの、味が染みやすいものなどが定番として使われています。代表的な野菜といえば、きゅうり、大根、にんじん、かぶ、ナスなどが挙がりますよね。

ですが、ぬか漬けは基本的にどんな野菜でも漬けて大丈夫だといわれています。なんと野菜以外の食品でも美味しく漬けられるものが多々あるんだとか。そこで、ちょっと変わり種もありますが、ぬか漬けにぜひオススメしたい野菜や食品を7つご紹介しますね。

① パプリカ
ピクルスなどでよく使うパプリカですが、ぬか漬けもよく合います。しんなりとなりつつも、パプリカ特有のシャキシャキ食感も残って絶妙な歯ごたえに。またパプリカはぬか漬けにしても発色がキレイなままなのもうれしい点。【漬け時間目安:6時間程度】

② アボカド
ちょっと意外ですがアボカドをぬか漬けにすると、味わいが濃厚になり、まるでチーズのような感じに。お酒のおつまみとしても大活躍しますよ。少し固めのものを選ぶと、ちょうどいい柔らかさになります。【漬け時間目安:12時間程度】

③ ズッキーニ
そもそも瓜科の野菜と相性がいいぬか漬けは、食感が似ているズッキーニも美味しくしてくれます。ギュッと身が詰まったシャキシャキ食感が癖になりますよ。【漬け時間目安:12時間程度】

④ ごぼう
ぬか漬けにすると、ほどよい酸味と塩気にごはんが進むのがごぼうです。アク抜きをする一手間がいりますが、下ごしらえをしているので漬かりやすく、風味豊かに仕上がります。【漬け時間目安:半日〜1日程度】

⑤ ミョウガ
初夏から秋頃まで楽しめるミョウガも、ぬか漬けに合う野菜。その独特の香りと味わいがマイルドに仕上がります。半分に切って漬けると味が染みやすいですよ。【漬け時間目安:1〜2日程度】

⑥ りんご
野菜ではなくフルーツですが、ぬか漬けにするとりんごの甘みと塩気がマッチして最高のおつまみに!甘みが強いリンゴより、やや酸味があるりんごがオススメ。4つ割りにして漬けてみてくださいね。【漬け時間目安:12時間程度】

⑦ ゆで卵
野菜ではありませんが、イチオシなのがゆで卵。卵を茹でる手間はかかりますが、卵の旨味がギュッと凝縮したような味わいが楽しめます。ぬか漬けの酸味のおかげでチーズやマヨネーズのような濃厚な風味に。【漬け時間目安:12時間程度】

以上、漬けてみたい野菜や食品はありましたか?興味を持った時が、まさにぬか漬け吉日。ぬか床の管理は大変そうなイメージもあるかもしれませんが、できる範囲で大丈夫!「菌活メニューがもう一品ほしい」という時に大活躍すること間違いなしですよ。

ぜひ、旬の野菜でぬか漬け生活を始めてみてくださいね♪


参考: 
●高橋栄造編集(2018)『発酵のちから 快腸!がんも生活習慣病も、心配いらない』辰巳出版.
●メディアソフト書籍部著(2016)『ぬか漬けのあるしゃれた生活』三交社.
●オザワエイコ著(2022)『無印良品「発酵ぬかどこ」徹底活用術』新星出版社.
●日野製薬,薬食同次元「ぬか漬けは生きている」https://hino-seiyaku.com/blog_crude_drug/food/post_66.php
●西利,読む西利「西利研究室が教える “ぬか漬の秘密”」 https://www.nishiri.co.jp/knowledge/knows/colum014/
●カゴメ,ベジコミ通信ひとてま上手「ぬか床を育てよう」https://shop.kagome.co.jp/lp2/vegecomi/hitotema/2017/0113/index.html
●くらしのgenten,「初心者でも簡単にできる、ぬか床の作り方」https://genten-life.kuipo.co.jp/contents/618